考え方とメソッドThe Concept and the Method
動きの感覚に注意を向け、
習慣化した「癖」から自分自身を解き放つことで、
質のよい行動ができるようにしていきます。
自分の感覚に
注意を向ける
フェルデンクライスのレッスンは、モシェ・フェルデンクライス自身がそうであったように、けがなどで体に痛みを抱えている人でも実践できるようにプログラムされています。筋肉を鍛えたり、強く引っ張ったりと力を使うのではなく、最小限の力で効率的に動く方法だからです。モシェ・フェルデンクライスが目指したのは、体ではなく脳を訓練して、いつでも最適な動きを見つけられるようにすることでした。
フェルデンクライスのレッスンでは、手本となる動きを真似て練習することはしません。人はそれぞれ体型も考え方も違うため、都合のよい動きも人それぞれ。その人にとって最適な動き方は、その人だけのものです。レッスンでは、それを発見する方法を学んでいきます。どういうふうにするかというと、自分の感覚に注意を向けることから始めるのです。
シンプルな動きを繰り返すことで
脳に色々な情報を送る
脳は運動神経を使って感覚からの情報を集め、それに反応して新しい動きの指示を出すということを繰り返していきます。赤ん坊が動き方を学ぶプロセスを考えてみましょう。寝返りをうつ、ハイハイをする、立ち上がる、歩く、こうした動きの発達は、何度も何度も実験と失敗を繰り返しながら脳に情報を送り続けた結果です。
フェルデンクライスのレッスンでも、シンプルな動きを繰り返します。反復そのものが目的なのではなく、何回も試してみて、脳に色々な情報を送っているのです。さらに、繰り返すことで脳には新しい、もしかしたら有効かもしれない動き方を試すチャンスが生まれます。これはつまり、動きの選択肢が増えていくことでもあります。
人は大人になるにつれて、意識的にしろ無意識にしろ、決まったやり方を繰り返すようになります。動き方、姿勢、話し方、ひいては考え方や心の持ちようまで、決まりきったものになりがちです。このことを「規定化される」といいます。規定化は一概に悪いことだとは言えませんが、もしも、それが原因で思い通りに動けなかったり、さまざまな不調が生じるのであれば、改善する必要があります。
その際、フェルデンクライスのレッスンが役に立ちます。何かひとつの動きを色々な方法で試し、脳に「選択肢を与える」ことによって、新しい動きを獲得する。このフェルデンクライスならではの方法を利用すれば、「規定化」による問題を解消することができるかもしれないのです。少なくとも、パターン化してしまった動きや姿勢によって生じた不調、肩こり、こわばり、緊張、そのほかさまざまな症状を解決するには効果的です。
動きは選べるように
なっている方がよい
フェルデンクライスでは、何かをするときに「ひとつしか方法がない」のはよくないと考えます。レッスンでは、シンプルな動きを繰り返しますが、そのときにも一つひとつの動きは別のもので、前の動きのコピーにならないように、動きと動きの間に少し休みを入れます。
そのようにして、動きのいろんなバリエーションを体験することによって、脳には、どれを選ぶかという選択肢が生まれます。レッスンのなかでその時々に選んで試す動きは、必ずしも最適なものではないかもしれません。ですが、結果として生まれた動きは少なくとも日常的に繰り返していた「規定的」な動きとは違うものになります。
このプロセスを繰り返すことで、徐々に最適な動きに近づけていくことができます。「ひとつではなく、いくつか」。状況に一番適した動きを選べるようになっていることが大事です。方法の選択肢があることの重要性がわかれば、フェルデンクライス的な学びはぐんぐん進みます。
動くことから自分を変える
フェルデンクライスのレッスンをすると、体だけでなく、心にもよい変化が現れてきます。これもフェルデンクライスの効果のひとつだといえます。実際、心の変化に感動してフェルデンクライスが大好きになる人も少なくありません。そもそも体と心はひとつで、分けることのできないものです。
少し難しい話になってしまうかもしれませんが、私たちの心の中には常に、「感覚」、「感情」、「思考」が存在しています。フェルデンクライスのレッスンでは、特に「感覚」に注目して動いていきます。しかし、「感情」や「思考」も、常に体の動きとともにあります。そして、それらすべては脳の中で起こっていることです。脳の学習を促すフェルデンクライスは、体の動きという、わかりやすく、捉えやすいものを利用して、「感覚」、「感情」、「思考」を含む、人の活動すべてに影響を与えようとするものだといえるでしょう。
実際にレッスンの後で、体が楽になる、体の中に新しいスペースができる、といった感覚があるとき、同時に気持ちが楽になる、心に余裕を感じる、といったことが起こります。あるいは、柔軟になったり軽くなったりと、動きの「質感」が変わるとき、同時に気持ちの上でも同じような質感を感じることがよくあります。
このことからもわかるように、心と体は別のものではなく、変化はいつも全体に起きているのです。だとしたら、考えたり感じたりするような目に見えないことではなく、より捉えやすい体の「動き」を使って全体に変化を起こすフェルデンクライスは、とても効果的な方法でしょう。そして、動きや体についての感覚は、そのまま自分自身や周囲をどのように捉えるかという自己イメージに直結しています。つまり、動きがよくなれば、自己イメージもよくなり、自分に対する自信も生まれるのです。そのことが社会生活を送っている私たちにとって、大きなプラスになることは言うまでもありません。シンプルな動きをすることによって、自分を変えることが簡単にできてしまう。フェルデンクライスは本当に素晴らしいメソッドなのです。
今の時代にこそ必要な
フェルデンクライス
現代社会では、なにかと評価されることが多く、また失敗が許されないような環境に身を置く人も多いものです。女性なら「女たるもの、こうあるべき」という価値観によって不自由な思いをすることが少なくないですし、男性に至っては企業など組織の一員として懸命に働き、家に帰れば家族を養わなければならないというプレッシャーで、公私ともに縛られている人も多いことでしょう。
そして、若い世代では「今の仕事を続けていても大丈夫か」「安心して老後を迎えれるのか」といった将来の不安を漠然と感じている人も多いといいます。
このように私たち現代人の体は、とても緊張しています。肩や首、背中がこわばっていて、人によっては痛みさえ感じています。目をかっと見開く、奥歯をぎゅっと噛みしめるなど、知らず知らずのうちに体のどこかに力が入っている場合もあります。慢性的にそのような状態が続くと、疲労が溜まってしまいます。また、緊張や疲労、体調不要で悩み、不眠を訴えたり、「この状態をなんとかしたいけれど、どうしたらいいかわからない」と、メンタル面で疲れ切っていることもあるのではないでしょうか。
フェルデンクライスのレッスンでは、不必要な力をなくす練習をしていきます。そして、レッスンを行っていくにつれて緊張が取れリラックスしてきます。すると、こわばりからくる体の疲れや痛みなども徐々に消え、次第に楽になっていきます。また、手本や正解のないフェルデンクライスでは、他人と比べずにとことん自分自身と向き合っていくので、開放感がありメンタル面でもよい効果が現れます。「仕事で業績をあげなければいけない」「母親らしくふるまわなくてはいけない」というように、無理して自分を周りの価値観に合わせるのではなく、「自分は本当はどうしたいのか」という心の声に注意を払うことができるようになってきます。体の内部に神経を集中させ、楽な動き方を探っていくことで、自分が本当にやりたいことに気づき、さらにそれを実現する方法を探せるようになっていくのです。
私たちは今、インターネットをはじめ、テレビや雑誌、広告などにより、大量の情報に日々さらされています。そのため、いくつものことを同時にやろうとしたり、願望や妄想に支配されたりして、不自然なエネルギーの使い方をしていることも多々あります。情報が多すぎるなかで自分を見失わないでいることは、思った以上に難しくなってきているのかもしれません。まずは自分を理解することが大切です。そのツールとして、フェルデンクライスは最適です。自分自身について、「何をしているか」「何がしたいか」が本当にわかっていれば、どのように自分を変えればよいか、自ずと明らかになるからです。